5時半起床。3度目の登山。出発が遅れたうえ、さほど天気もよくなさそうだったので、国師ヶ岳に登る予定を変更して、より簡単に登れそうな丸山・白駒池を目的地にする。
いつもの談合坂SAで朝ごはんを食べ、昼食用のパンを買って、さらに進む。高速を下りてメルヘン街道に入ったところで、なんだか懐かしさを覚えて、はたと思い出す。3年前の夏にも、ふたりでこの道を通ったのだった。あのときは途中で大雨が降り、すれ違うライダーにつくづく同情したとか、展望台で車を停めて写真を撮ったとか、どんどん記憶がよみがえる。
それではしゃいでいたら、恋人が突然、あっと言って車を停めた。なにかと思えば、道路を鹿が横切ったのだった。1頭、つづけてまた1頭。
あわててカメラを取り出し、写真を撮る。鹿はそんな私たちの様子を、木立の間から不思議そうにじっと見つめている。おかげで計らずもカメラ目線の写真が撮れた。黒目の愛らしい鹿だった。(右写真をクリックしてご覧あれ)
11時半、登山の用意を整えて、いよいよ樹林帯に分け入る。と思ったら、すぐに視界が開け、青々とした笹原に出た。涼風が笹を揺らしながら吹き抜けて、気持ちがいい。やがてふたたび樹林帯に入り、苔むした木々の間を歩く。ひんやり湿った空気が頬をなでる、静謐な世界。
しばらく行くと、私たちが停めたのとは別の有料駐車場から、白駒池が目当てとおぼしき観光客がぽつぽつ現れ、にわかににぎやかになる。そこから「白駒の奥庭」と名づけられ、木道の整備された場所に出る。ところがこの木道が私の歩幅にあわなかったのか、見た目とは裏腹に歩きづらく、私は苦労して歩きながら平均台を思い出した。
やがて白駒池のほとりに出る。それからしばらく、池のほとりをなぞるようにして、木道を歩く。このころになると、先ほどまでの観光客はほとんど見なくなった。その代わり、ボートに乗っているのだろうか、池のあちら側から子どもたちの歓声が聞こえてきた。
声の発生源であろう小屋まで来ると、左手に急な上り坂が見えてくる。なかなかの斜度である。水分を補給し、気を引きしめて、いざ山を登りはじめる。
恋人に登山用の手袋を貸してもらい、苔に覆われた石や、土を這う木の根に足をとられないよう注意しながら、ふうふう登る。日頃の運動不足がたたって、すぐに息があがってしまうものの、じきに慣れる。
そうしてたどり着いたのが、高見石小屋。小屋の裏手には、子どもの背丈ほどもの大きな岩がごろごろ重なっており、山となっている。これが高見石であるらしい。眺望がよさそうなので、覚悟を決めて岩山を登ってみることにした。
前を行く恋人に「三点確保だよ」と言われながら、えっちらおっちら岩をよじ登ると、なるほど、たしかにすばらしい眺望である。つい数十分前に歩いた白駒池が、今やはるか下方に見える。我ながら、よくここまで歩いたものだと感心する。
しばし岩にもたれて眺望を楽しんでいると、背後から初老のご一行様の会話が耳に入ってきた。曰く「まあ、若いのに感心ねえ」「ほら、見てごらん。物も言わないよ。顔を見りゃお互い思ってることがわかっちまうんだよ」「なんだかあたし、感動しちゃうわ」
高見石を下り、丸山山頂を目指す。途中からふたりともおなかがぐうぐう鳴り出し、とにかく一刻も早くパンを食べたい一心で、足を前に出しつづけた。
午後2時、丸山山頂に到着。山頂は狭いうえ、眺望も望めないけれど、今の私たちにはそんなことより昼食のほうが大事だ。山頂標のうしろに陣取ると、さっさと荷物をといてパンにかじりつく。パンは恋人のリュックのなかでぺしゃんこにつぶれていたけれど、とてもおいしかった。
30分ほど休憩したのち、別の道をたどって山を下る。駐車場まで約1時間。私の背丈よりも大きく広がった根っこをあらわにして、でんと横倒しになった大木や、東屋を呑みこまんばかりの勢いで、たっぷり生え広がる艶やかな笹など、自然の風景を満喫した。
車に戻ると、今宵の宿からさほど離れていない立ち寄り湯を探す。露天風呂も備えた「延命の湯」というのがよさそうだったので、そこまで車を走らせてみて、これまたびっくり。やはり3年前の夏に訪れた「道の駅 小淵沢」のなかにあるのだった。小淵沢の駅名標を模した看板の前で写真を撮ったことやなんかが、次々と思い出される。こうして振り返ってみると、3年なんてあっという間だ。
チケットを買い、時間を待ち合わせて、男湯と女湯に分かれて入る。できてまだ数年といったところだろうか、とても清潔で気持ちのよいお風呂だった。汗を流し、からだをみがきたて、内風呂も露天もしっかり満喫してあがる。
恋人が物欲しそうにしているので、缶ビールを飲むことを許し、私は道の駅でヨーグルトを買って飲む。からだを動かしたあとの1杯は、おいしい。
それにしてもおなかがすいた。お昼にパンふたつきりしか食べていないので、それはもう尋常ならざるすきっぷりである。ということで、休憩もそこそこに、私たちは今宵の宿を目指したのだった。
信濃路その2につづく。
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