くるりが歌うところの「赤い電車」に乗っかって、黄金町バザールへ行く。かつて青線地帯としてその名を知られた街が、まちづくりの一貫として、若いアーティストたちと一緒につくりあげたバザールである。
その地で目にしたのは、ずらり並んだガラス戸の店。間口一間ほどの小さな引き戸のなかには、ほんの数年前まで、客引きの女たちが立っていたのだという。今はそのほとんどが空き家になっているか、安いアパートとして貸し出されている。黄金町バザールでは、そういう建物にも手を加えて、アートを展示したり、インスタレーションの場にしたりしていた。
なかに足を踏み入れると、まず受付らしき台があり、つづいてシャワールームがあり、その先に狭い階段が伸びる。2階には、かつての営みを偲ばせる3畳ほどの部屋が、ひとつかふたつある。それだけの空間だ。
どの建物も内部は似たり寄ったりで、最低限の機能だけを集約した、コンパクトな造りである。そのあっけらかんとした様には、どこかおかしみすら感じてしまう。人間の欲望とは、かくもちっぽけなものである。
とはいえ、そこで展開されるアートは、一部を除いて、そういう歴史とは無関係のものばかり。たくさんの端切れを縫いあわせた人形や、静寂のなかに冷たい光を放つ写真などなど、幅広い作品が展示されていた。なかには参加型のイベントも多く、川沿いの道で、自ら絵付けをした陶器をその場で釜焼きにし、野点のお茶を楽しむというプロジェクトには、たくさんのひとが集まっていた。

うろうろ歩きまわっていると、偶然にも知り合いのアーティストに出くわした。彼が横浜でも展示をしているというので、そのまま桜木町まで歩いていくことにする。
途中、三幸苑なるラーメン屋でねぎそばと餃子を食べ、むかった先は横浜ホームコレクション。いわゆる住宅展示場である。ここに小山登美夫やヒロミヨシイなど、現代アートを代表するギャラリーが、作品を展示するというのである。
計17あるモデルホームをすべてまわり終えるころには、さすがにへとへとになっていたのだけれど、おしまい近くの住友林業の家で、見知らぬ男性に声をかけられ、お茶にお呼ばれする。
作法もなにも知らないまま茶室に座り、まず懐紙に乗せられた甘いお茶菓子をふたつ、いただく。それから男性に教えられたとおり、絵柄が反対をむくように茶椀をまわし、お茶をいただいた。
素人が言うのもなんだけれど、これがとてもおいしい。ふんわりと空気をはらんで、まるで生クリームのようになめらかなのである。舌に残るお茶菓子の甘みとあいまって、苦さもまったく感じない。それで、素直に「おいしい」と口にしたら、男性はうれしそうに目を細めて、「上手なひとに点ててもらってますからね」と答えた。
それからアーティストが作った茶碗について、しばらく話し、ここを訪れたきっかけについて話し、黄金町について話し、お茶会は幕を閉じた。時間にすれば、ほんの十分ほど。でもどうしてだか、ひどく心に残るお茶会であった。
のちに私は、その男性が、日本で初めて現代美術を扱う画廊として1950年に開廊した「東京画廊」の現代表、山本豊津さんと知った。
最近のコメント