散歩のこと

2009/01/23

映画館でライブ

Sajilo_cafe_2 昨日作ったお散歩MAPをかばんに忍ばせて、吉祥寺へ行く。

まずサジロカフェでネパールカレーランチをいただいた。使いこまれたやさしい風合いのインテリアがかわいらしく、カレーもおいしい。つづいて、36(サブロー)をのぞき、絵本の店トムズボックスで茂田井武『パリーノコドモ』を購入。日に焼けたような色合いや、右から書かれた文字が心をくすぐる。さらに、にじ画廊、CINQ、MOMO NATURAL、NATURAL KITCHEN、私の部屋、よみた屋とまわって、おしまいにバウスシアターヘ。本日のお目当て、『THE ROLLING STONES,SHINE A LIGHT』を観る。

どうしてわざわざバウスシアターまで足を運んだかというと、特別にライブ用のPAを使っていて、ものすごく音がよいと、音楽好きの先輩から聞きつけたからだ。はたして、ライブの臨場感そのままの音で観た映画は、とんでもなくおもしろかった。さして音楽に詳しくない私が言うのだから、間違いない。

それにしても、やはりミック・ジャガーはすごい。なんというか、真摯で紳士なのだ。ライブのパフォーマンスもそうだけれど、ひとつ質問に答えるのでも、相手の言葉にじっと耳を傾け、誠意を持って答えようとする。

それに引き換え、キースの悪童ぶりと言ったら。あんまりミックに世話かけるんじゃないよ、と説いて聞かせたくなった。

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2009/01/22

愛についてまわるもの

明日、吉祥寺の映画館へ行くことになったので、恋人がいつも町歩きに持ち歩く地図を拡大コピーし、まわりたいお店を書きこんで、オリジナルのお散歩MAPを作成する。

寝る前に、川嶋雄三『愛のお荷物』のつづきを観る。産児制限を主張する厚生大臣の一家に、次々に赤ちゃんができてしまって……、というドタバタコメディ。なるほど、愛のお荷物とは言い得て妙。笑いながら楽しく観る。

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2009/01/16

かかと恨めし

よく晴れたので、面倒がる恋人を説き伏せて、久しぶりに渋谷へ出かける。BCサロンで白いスカートを買い、フラボアでジャガーのスニーカーを買い、原宿まで歩いてナンバー11でブーツを試着。

色といい、軽さといい、革のしなやかさといい、それはもう私の理想どおりのブーツで、なんとしても我が物にしたかったのだけれど、あぁ、なんとかなしいことか、やはり、踵が浮く。中敷を1枚敷いてもらっても、浮く。試しに2枚敷いてもらっても、浮く。ほかはなにひとつ申し分ないのに。

それでも買ってしまおうかと真剣に悩んだけれど、冷静な恋人に止められて、泣く泣くあきらめる。夢にまで見そうなくらい、口惜しい。踵め、いっそお前だけ太らせてやろうか。

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2009/01/11

からきし駄目

よく晴れたので、恋人と散歩に出かける。あちこち歩いた帰りに、まちかどへーベルハウスを見学。これがとてもすてきで、すっかり心を奪われてしまう。でも、いったいいくら稼げるようになったらこういう家を建てられるのだか、まるで見当がつかない。生活設計能力に難のあるふたりである。

就寝前に、黒澤明監督の『一番美しく』鑑賞。戦時中の、誰も悪人が出てこないお話。うまく戦争礼賛を避けている。

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2009/01/04

四も富士

French_toast 今日もよく晴れ、4日連続で富士山を拝む。

兄嫁Nさんと甥っ子と、根津神社まで散歩に行く。さすがにもう初詣のひとも少なく、露店も数えるばかりになっていた。お参りをして、近くのカフェでチョコバナナフレンチトーストを食べ、さらに散歩をつづける。甥っ子もベビーカーを降り、得意そうによちよち歩く。

おやつの時間を過ぎたころにふたりと別れ、古本カフェで知人のライターさんと仕事の打ち合わせ。1時間ほど話して帰宅する。

町田康『告白』を読みきってから、ひとりで夕ごはんを食べ、今度は山田風太郎『風眼抄』を読みながら半身浴をする。福島の恋人は、久々のスノボで体力を使い果たしたらしい。何通かメールをやりとりして、寝る。

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2009/01/01

一富士

Img_6444_2 富士山がくっきり見える縁起のよい元旦。

家族みんなでお雑煮をいただき、恋人と谷中へ。よみせ通りからめぐりんに乗って、浅草まで物見遊山に出かける。初詣だろうか、浅草はどこもかしこも大勢のひとでにぎわい、露店もずらり立ち並んでいる。浅草寺に詣でるには、1時間も並ぶというからすごい。露店を冷やかしながら、ぶらり上野まで歩き、そこから電車に乗って帰る。

夜、『クラッシュ』を観る。よく練られた群像劇、という程度の知識しか持たずに観たので、そのメッセージ性の強さに驚く。こんなにも社会派の映画だったとは。年明け早々に観るにはあまりにも重いけれど、深く考えさせられる映画ではあった。

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2008/12/23

果報者がふたり

三河島まで散歩に出かける。洗濯物をつるした竿を、Y字の棒に挟んで、えいやっと持ち上げるタイプの物干し竿が、澄ました顔をして民家の軒先に並んでいるのを見て、びっくりする。ベランダ全盛の時代になって、さぞ肩身の狭い思いをしているだろうと思ったら、こんなところで活躍していたなんて。なんだか旧友に再会したような懐かしさを覚える。

夜、春の古本市にむけた会議に出席する。どきどきするような報告が相次ぎ、胸がざわめく。5年目を迎える来年は、どうやら節目の年になりそうである。

会議のあとは、近所の居酒屋に場所を移して、忘年会が開かれた。実は、と恋人の就職ならびにふたりの結婚のことを報告すると、みんなぱっと顔をほころばせ、我がことのように喜んでくれる。それでついついお酒がすすんで、2時まで飲んだくれてしまう。

心から祝福してくれるひとがいるというのは、なんて幸せなことだろう。

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2008/12/19

いない世界で

友人Rちゃんと食事をする約束をしていたのだけれど、彼女の優しさに甘えて、食事の席で泣き出したり、黙りこくったりしてしまいそうだったので、会うのは来週に延期してもらって、代わりに恋人と六本木へ行く。

まず乃木坂の安藤忠雄展をのぞきに行くと、ちょうどご本人がいらっしゃって、運よく間近でギャラリートークを聴くことができた。安藤さんは、冗談とも本気ともつかない調子でつるつるしゃべりながら、間にするりと大切なことを紛れこませる。その気さくで、懐の大きな感じがまた、器の違いを思わせるのだった。

それから芋洗坂のギャラリーで、兄の展示を観、近くのお寿司屋で昼定食を食べ、思い立ってちいばすに乗る。青山で降りて、246を渋谷方面に向かって歩き、最近移転したばかりの知人が営む古書店を冷やかしに行ったのだけれど、まだ開店の準備が整っていないのか、なかは真っ暗。仕方なく店名の貼られた郵便受けの写真を撮って、宮益坂を渋谷駅へ下って、電車で帰る。

Img_6327 疲れたのか、床に突っ伏してうつらうつらしてしまう。夕闇のなかで目覚めたとき、ふっとペチの不在という事実が降ってきて、どうしようもない喪失感にすっぽりくるまれる。

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2008/12/13

人間模様

私がハンドルを握り、東京まで帰ってくる。これで今年の旅行もおしまい。3月の京都にはじまり、今年は12回も旅行をしたのだった。

Arakawasen 家に着いてみると、まだまだ余力があったので、ふたりで遠くまで散歩に出かける。荒川線の走る町で、訳あり風のひとたちばかりが切り盛りする居酒屋に入って、ごはんを食べる。特に、からだのラインもあらわな、ぴっちりとしたミニスカートで注文を聞いてまわるお姉さん(おさなご連れ)が、深遠な「訳」を抱えていそうで、興味をそそられる。

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2008/12/06

楽しい寺町

Gyunyu 午後、谷中へ。顔見知りになったお店へ、あいさつがてら、私たちのつくっている地図を配り歩く。やはり楽しい町である。とびきりおいしいベーグルと、とびきりおいしいカフェラテを買って坂をのぼり、町を見下ろすお寺の境内でいただくと、閉店セール中の古書店をのぞいて帰る。

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2008/11/30

ゆるいふた

Tezukuriichi 知人たちの主催する「みちくさ市」へ行く。雑司ヶ谷の商店街を使った、古本フリマである。ちょうど近くの鬼子母神で「手創り市」を開催していたので、そちらものぞく。

こんなものまで自分でつくれてしまうのですか!? と、不器用な私が思わず鼻息を荒くしてしまうほど、すてきな品々が並んでいる。ほしいものはたくさんあれど、それは必ずしも、なくてはならないものではない。ということで、物欲にそっとふたをし、銀杏の葉を踏みしめて会場をあとにする。

みちくさ市には、主催者にも出店者にも、見知った顔がたくさん。それで楽しい気持ちになって、ついさっきふたをしたばかりの物欲が勢いよく噴出し、買いに買ってしまう。こんなこともあろうかと、マイトートを持参した甲斐があったなぁと、しみじみ感じ入る秋のお散歩日和。

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2008/11/29

黄金桜木

Koganecho_bazaar くるりが歌うところの「赤い電車」に乗っかって、黄金町バザールへ行く。かつて青線地帯としてその名を知られた街が、まちづくりの一貫として、若いアーティストたちと一緒につくりあげたバザールである。

その地で目にしたのは、ずらり並んだガラス戸の店。間口一間ほどの小さな引き戸のなかには、ほんの数年前まで、客引きの女たちが立っていたのだという。今はそのほとんどが空き家になっているか、安いアパートとして貸し出されている。黄金町バザールでは、そういう建物にも手を加えて、アートを展示したり、インスタレーションの場にしたりしていた。

Koganecho_bazaar3_2なかに足を踏み入れると、まず受付らしき台があり、つづいてシャワールームがあり、その先に狭い階段が伸びる。2階には、かつての営みを偲ばせる3畳ほどの部屋が、ひとつかふたつある。それだけの空間だ。

どの建物も内部は似たり寄ったりで、最低限の機能だけを集約した、コンパクトな造りである。そのあっけらかんとした様には、どこかおかしみすら感じてしまう。人間の欲望とは、かくもちっぽけなものである。

とはいえ、そこで展開されるアートは、一部を除いて、そういう歴史とは無関係のものばかり。たくさんの端切れを縫いあわせた人形や、静寂のなかに冷たい光を放つ写真などなど、幅広い作品が展示されていた。なかには参加型のイベントも多く、川沿いの道で、自ら絵付けをした陶器をその場で釜焼きにし、野点のお茶を楽しむというプロジェクトには、たくさんのひとが集まっていた。

Koganecho_bazaar2 Koganecho_bazaar5 Koganecho_bazaar4

うろうろ歩きまわっていると、偶然にも知り合いのアーティストに出くわした。彼が横浜でも展示をしているというので、そのまま桜木町まで歩いていくことにする。

途中、三幸苑なるラーメン屋でねぎそばと餃子を食べ、むかった先は横浜ホームコレクション。いわゆる住宅展示場である。ここに小山登美夫やヒロミヨシイなど、現代アートを代表するギャラリーが、作品を展示するというのである。

計17あるモデルホームをすべてまわり終えるころには、さすがにへとへとになっていたのだけれど、おしまい近くの住友林業の家で、見知らぬ男性に声をかけられ、お茶にお呼ばれする。

作法もなにも知らないまま茶室に座り、まず懐紙に乗せられた甘いお茶菓子をふたつ、いただく。それから男性に教えられたとおり、絵柄が反対をむくように茶椀をまわし、お茶をいただいた。

素人が言うのもなんだけれど、これがとてもおいしい。ふんわりと空気をはらんで、まるで生クリームのようになめらかなのである。舌に残るお茶菓子の甘みとあいまって、苦さもまったく感じない。それで、素直に「おいしい」と口にしたら、男性はうれしそうに目を細めて、「上手なひとに点ててもらってますからね」と答えた。

それからアーティストが作った茶碗について、しばらく話し、ここを訪れたきっかけについて話し、黄金町について話し、お茶会は幕を閉じた。時間にすれば、ほんの十分ほど。でもどうしてだか、ひどく心に残るお茶会であった。

のちに私は、その男性が、日本で初めて現代美術を扱う画廊として1950年に開廊した「東京画廊」の現代表、山本豊津さんと知った。

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2008/10/30

ぐるぐる背表紙

朝のうちに仕事を片づけてしまって、神田古本まつりへ出かける。縁あって、文京区よりコミュニティバス「B-ぐる」の記念乗車券をたくさんいただいたので、初めてその小さなバスに乗ってみた。環状のようでいて、実は乗換えが必要だと知ってびっくり。始点でもあり、終点でもある文京シビックセンターでバスを降り、そこから歩いて神保町へ向かう。

歩道に並べられた本棚を、端から端まで眺める。ずらり並んだ背表紙を追いつづけていると、だんだん疲れてきて、しまいにはほんとうに本がほしいのだかなんだかわからなくなってくる。

夕方になっておなかがすいたので、餃子を食べ、ギターの弦を買って、後楽園のほうまで歩いて戻り、ふたたびB-ぐるに乗って帰る。

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2008/10/27

他人事ならぬ

Jinbocho 仕事の合間に、近所の書店で立ち読みをしたり、恋人のSRでふらり神保町まで出かけてみたりする。「神田古本まつり」初日を迎えた神保町は、たくさんのひとでにぎわっていた。その様子を見ながら、初日がお天気に恵まれてよかったと心から思う。まったく関係がないとはいえ、「古本市」と聞くと、とても他人事とは思えないのである。

恋人が授業で使うというので、無料で配布している神保町の地図をもらって帰る。開いてみれば、以前のものから地図のレイアウトが大幅に変わっている。きっとこれを変更するのにも、喧々諤々の議論が交わされたのだろうなぁと、やはり他人事ならぬ思いで考える。

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2008/10/25

社会科見学

Tomare 朝からパソコンにむかって、ぽつぽつ仕事をする。

気分転換に読んだ新聞の折込チラシに、近所にある中古マンションの販売広告が載っていたので、散歩がてら恋人と内見に行く。駅前のタワーマンション、それも築浅とあって、相場よりだいぶ高い物件である。どんなすてきな部屋なんだろうと期待して行ったのに、中途半端な間取りだし、特別な工夫が凝らされているわけでもないし、安普請だし、ひとつもいいところがなかった。

唯一特筆すべき点があるとするならば、その眺望が挙げられるけれど、それだってじき隣にもう1棟同じようなタワーマンションが建つので、寿命は長くない。がっかりして、早々に部屋をあとにした。

もちろん、今の私たちにマンションを買うだけの財力なんてないのだけれど、こうやってよくあちこちの物件をのぞき歩いているおかげで、少しずつ見る目が養われてきたように思う。そうして来るべき日を待つ所存である。あるいは、そんな日は永久に来ないやもしれないけれど。

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2008/10/10

大人の特権

Dagashi 古本市で街頭紙芝居をやっていただくのにあわせて、駄菓子を売ることにしたので、兄嫁Nさんと甥っ子につきあってもらって、日暮里の駄菓子問屋へ買出しに行く。

数年前までは、駅前の路地を入ったところに、古い家屋が軒を連ねる駄菓子屋横丁があり、ちょっとした観光名所になっていた。それが大規模な再開発にともなって姿を消し、ほとんどの駄菓子屋が店を畳んでしまったのである。今は、ぴかぴかだけれどすかすかのビルに、わずかに2軒が残るだけとなっていた。

その2軒をはしごして、どっさり駄菓子を買いこむ。子どものころから考えると、まるで夢のようである。なにしろ、蒲焼さん太郎も酢だこさん太郎もうまい棒も人参もミックス餅もサイダーヨーグルも、なにもかも箱買いできるのである。甥っ子が寝ついたのをいいことに、ふたりできゃあきゃあ言いながら、楽しく買物をして帰る。

それからがまた楽しい。山と積まれた駄菓子のなかから、思い思いのものを選んで袋詰めし、福袋を作ったのである。福袋というからには、値段以上のものを入れる必要があるわけで、儲け度外視・楽しさ重視で、100円の福袋に110~130円分の駄菓子を詰めこんだ。

Dagashiya すぐに売り切れちゃったらどうしよう、追加する?などと取らぬ狸の皮算用をしながら、大人になった喜びを噛みしめたのであった。

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2008/10/03

午後4時のお茶会

Cake 今日も朝から古本市の準備。午前中は家で作業をし、午後は自転車で町をめぐる。

予定していた仕事に片をつけたあと、路地にひっそりたたずむお気に入りのカフェへ行く。そこでケーキセットをいただいて、ようやく人心地ついた。午後4時のお茶会。

注文を受けるたびにドリップしてくれるコーヒーもおいしいのだけれど、ほんのり温かい手作りケーキが、私は好きなのである。ケーキに添えられた、ふわっとやさしい生クリームがとてもおいしくて、お皿についたものまできれいにすくって食べてしまう。ほんとうは生クリームは苦手なのに。

ぎすぎすとんがっていた心まで、ふわっと包んでもらって、家に帰る。そして今度は、パソコンにむかって仕事をする。

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2008/09/26

我が子の幸福

Tono2_2 2ヵ月半ぶりに、友人Rちゃんと会う。前回は彼女の新婚家庭にお邪魔したので、今回は私が谷根千を案内することにした。風が強く、ときどき小雨のぱらつくなかでの散歩とあいなった。

町の小さなイタリアンレストランでゆったりお昼ごはんを食べ、路地を縫ってあちこちの雑貨屋やギャラリーをめぐり、住宅街の一角にひっそり佇むカフェでお茶を飲む。そうして色々なことを話した。

うれしかったのは、Rちゃんが私の書いた小説を2度も繰り返し読んでくれたうえ、「大切なものを預かった感じがする」と評してくれたことである。半分泣きべそをかきながら書いたその小説は、けっきょく無冠におわったけれど、「私も大切にするね」と言ってくれるひとの手に渡って、きっと幸福であるに違いない。

私の大好きなこの町を、Rちゃんも気に入ってくれたらしく、今度は雑貨好きな友達をつれてくると言って、笑顔で帰っていった。

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2008/09/22

とぶとぶ座布団

ここ数日、眠りの浅い日がつづいていたのだけれど、久々にぐっすり眠った。安心しきって、幸福な気持ちで。

午後、知人にいただいたチケットを握りしめ、母、叔母、恋人とつれだって、両国国技館へ大相撲秋場所9日目を観に行く。案内されたのは、桝席の3列目。からだとからだのぶつかりあう音が、はっきり耳に届く場所である。

私はこの相撲観戦をとても楽しみにしていたのだけれど、期待にたがわぬおもしろさだった。みんなでそろって幕の内弁当を食べ、土俵入りを見学し、中入りの間に館内を散策し、ガイド片手に相撲観戦に興じる。館内のあちこちから、ひいきの力士を呼ぶ声が降ってきて、あぁ、相撲は庶民の娯楽なのだなあと、しみじみ感じ入った。

今日一番の目玉は、なんといっても横綱・朝青龍と関脇・安馬の対戦。昨日、豊ノ島に土をつけられ、3敗目を喫した朝青龍は、引退説までささやかれているのだ。否が応でも盛りあがる。

両者のからだがぶつかったと思った次の瞬間、あろうことか、朝青龍は安馬にまわりこまれて、あっさり背中をむける格好になってしまった。わあっとどよめきが起きる。朝青龍はそのまま送り出され、あっけなく4敗目。途端に、国技館に座布団の雨が降った。その取り組みを土俵下で観ていた横綱・白鵬は、危なげない相撲で豊ノ島を下し、1敗を守ったのだった。

帰ってからパソコンをたちあげると、朝青龍は引退こそ否定したものの、明日より休場する可能性があると報じられていた。けれどこう休場がつづくと、先が危ぶまれる。あるいは私たちの観たのが、最後の取り組みになるやもしれない。勝負の世界はかくも厳しいのである。

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2008/09/20

ふるさとは東京

Img_48422 兄嫁Nさん、甥っ子と、谷根千散策へ。

お気に入りのカフェへ行き、甥っ子がぐずりだしたところであわてて外へ出ると、根津神社大祭にわく根津の町まで足を延ばす。ちょうど太鼓や子ども神輿に行きあって、愉快な気持ちになった。

たくさんの屋台でにぎにぎしい根津神社の境内をそぞろ歩き、ギャラリーをのぞいたり、ついでにチラシを配ったりしながら散策をしていると、路地のむこうに不思議な物体が見えた。一見すると、米俵が宙に浮いているようにも見える。ところがその米俵には、赤い丸がふたつ描かれているのである。なにかと思ってよくよく目をこらせば、それはなんとアンパンマンの着ぐるみなのだった。これで町は平和である。

夕刻、今度は恋人と一緒に、毎月恒例の「ちいさな上映会」を観に行く。一番はじめの演目「日本の国土」が気になっていたのだけれど、それには間に合わず、二番目の「山おくの暮らし」(1964年)から観る。

くしくも恋人の故郷、福島のとある村が舞台。「おれが子どもだったころのばあちゃん家だって、これと大差なかったなぁ」と、恋人は懐かしそうに目を細める。東京生まれの東京育ちで、三世代の拡大家族で暮らしてきた私には、故郷と呼べる場所がなく、そんな恋人が少しうらやましくなったのだった。

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2008/09/13

街角に歴史あり

Img_47212 午後、恋人とふたりで『中古民家ツアー&スライドトーク 神保町編』に参加する。前回の『谷中編』につづいて、2度目の参加である。

十軒長屋に手を入れた「本と街の案内所」の2階からスタートして、同じく靖国通り沿いにある看板建築商家「季節風」の2階にお邪魔し、俎板橋(まないたばし)を渡って九段下へ出ると、西神田を抜けて水道橋まで足を延ばし、白山通りを横切って猿楽町をまわり、元喫茶店だったという遊興施設「ミッキー」を見学してスタート地点へ戻る、という2時間のツアー。約20名ほどの参加者を引率する眞鍋さんは、相も変わらず、いつ息継ぎをしているのかわからないほどの勢いで、あれこれ説明してくれる。

それからスライドトークがはじまるまでに30分ほど時間があったので、さぼうるでチーズドックを食べた。向かいの恋人は、早くも中ジョッキを干している。

時間ぎりぎりに「本と街の案内所」へ戻って、1列目でスライドトークを聴く。前回とはまた違った趣向が凝らされていて、おもしろい。最後までとても興味深く聴いた。

そして、お約束の打ち上げ。前回のツアーで知り合った尾道出身の方と隣り合わせになり、かの地の話に花が咲いた。(実はこの方のおかげで、夏旅で尾道を訪れたときに、とても貴重な経験をさせていただいたのだけれど、それについてはおいおい夏旅の日記に書きます)

さらに眞鍋さんのご主人で、カメラマンの鴇田さんも話に加わり、私のカメラに残しておいた尾道の写真を見ながら、すっかり盛りあがる。とにかく尾道は奥が深く、ひとを惹きつけてやまないものすごいパワーを持っているのである。

思えば、本職のカメラマンに自分の撮った写真を見せるなんて、なかなか大胆なことだけれど、膨大な量の写真を見せるうち、意外にも私と鴇田さんは指向が似ていることが発覚した。たとえば、マンホールのふたや住居表示板、顔はめ(観光地によくある、顔の部分だけくり抜いてある絵の板)にカメラをむけてしまうところなんかが。

そんなこんなで、熱の花が醜くくちびるを腫らしていることも忘れて、楽しく11時過ぎまで飲んだくれてしまう。すると夢か幻か、東京のど真ん中を、ど派手なトゥクトゥクが走り抜けていったのだった。

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2008/09/02

あっぷあっぷ

起きてすぐパソコンにむかい、仕事。今回いただいた仕事は、通常の倍のボリュームがあるものなので、なかなか手ごわい。(その分、原稿料も倍ではあるけれど)

古本市のチラシ・ポスター制作を手伝ってくださるデザイナーさんと打ち合わせをするため、夕刻、六本木ヒルズへむかう。まっすぐヒルズに行くだけではつまらないので、溜池山王で地下鉄を降りて、歩く。

タモリ倶楽部よろしく、坂めぐりをしよう、と恋人と申し合わせていたのだけれど、おもしろそうなものを発見するとすぐ道をそれてしまい、途中から申し合わせ事項のことはすっかり忘れてしまった。でも楽しかったので、よしとする。

ヒルズの手前で、どこかで見たことのある顔にぶつかる。ちらと目の合ったその顔は、とある映画に主演していた、あの役者さんのものである。冴えない役どころの多いひとだけれど、画面で観るよりずっと精悍で、すっきり引き締まったからだをしていた。

それからヒルズ内の居酒屋で、1年ぶりに会うデザイナーさんと打ち合わせをする。前回とはまた違う印象のものができあがりそうで、私たちも楽しみになる。

Img_4368けれどよくよく考えれば、チラシ制作に入るということは、その前にイベントの詳細をすべて決定しなければならず、中途になっているあれやこれやに、きっちり片をつけなければならないということでもある。飲んだはしからすぐ醒める。

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2008/09/01

屋上に夏の面影

無謀にも、ある世界の第一人者と呼ばれる方に、古本市へのご出演をお願いしてみる。すると「私は無理だけど、せっかくお声をかけてくださったので」と、ご親切に別の方を紹介してくださった。ほんとうに、ありがたいことである。

夕刻、仕事を中断して、恋人と上野精養軒のビアガーデンへ行く。涼風に頬なでられながら、過ぎ行く夏にしみじみ思いを馳せる。今日から9月。

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2008/07/19

消えゆくもの

Img_2196 文京区小石川の、再開発予定地区を歩く。

今言われる「再開発」というのは、古い建物を軒並み壊して、高層ビルやマンション、駐車場を建設することとほとんど同義である。そうして街はどんどん画一的になり、路地からひとの生活の気配が消えていく。ほんとうにつまらない。そんな詮ないことを考えながら、とぼとぼ歩く。

こんにゃくえんまでは、ほおずき市。長屋カフェには、浴衣のカップル。夏である。

夕刻、千駄木の蔵で開かれた「ちいさな上映会」に行く。『メモのある生活』『おせっかい』では、つっかけサンダルに買い物かご、スカートに前掛け、という正真正銘の専業主婦をたっぷり堪能する。それにしても、こういう映画は、いったいどういう場面で誰にむけて上映することを想定しているのか、まったくもって謎である。

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2008/07/07

長い散歩

七夕。曇り空の下、どこへ行くというあてもなく、散歩に出る。坂を下って、また登り、路地を進めば袋小路。回れ右して角を曲がり、歩く歩く、どんどん歩く。気づけば長い散歩になっていた。

恋人の部屋に行って、ベッドを占領し、ラッタウット・ラープチャルーンサップの『観光』を読みふける。すると私はたちまちタイの喧騒に飲みこまれ、見知らぬ人たちに交じって、踏みしだかれた食べ物や油で奇妙な光り方をするアスファルトの上を歩いていた。からだに粘りつく、そのじっとりした熱気に呼吸が苦しくなって、思わず本から顔をあげると、そこはクーラーの効いた部屋で、恋人が涼しい顔で仕事をしていた。

寝る前に『めがね』を観る。こちらは春の与論島が舞台。さらさら乾いた白い砂と、簡素で清潔な什器、背景も肩書きもまっさらな大人たちが出てくる映画である。そこに描かれているのは、ゆっくりと、けれど確実に流れてとどまることを知らない、時間。青空の下にはためく、洗いざらしの白いシーツのような気持ちになって、眠りにつく。

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2008/07/05

土を知っている手

Img_0468 「明日、谷中にアラーキーと田中泯が来るよ」という昨夜の情報をもとに、インターネットで検索してみると、どうやらそれはSCAI THE BATHHOUSEの「場踊り」という企画であるらしい。時間を確認して、さっそく「場踊り」が行われる谷中霊園内の五重塔跡に行ってみる。

ギャラリーから歩いてくるのかなぁ、などとのん気に恋人と話しながら、自転車を停め、公園内に目を転じて、息を呑む。田中泯さん、まさにその人が、ひとりベンチに座っているのである。

そのときの衝撃を、なんと表現したらいいのだろう。黒いシャツに黒いパンツをごくあっさりと身にまとい、なにもせずただベンチに腰かけているだけなのに、そのからだからは、そこはかとなく静かなエネルギーが立ちのぼり、いっそ気品すら漂っている。公園を見渡す視線、無造作に組まれた足、投げ出された腕、煙草をくゆらす指先……。挙止のひとつひとつが優雅で、千もの意味を持っているかのようである。

私たちはもう一瞬にして参ってしまった。ほんとうに、なんというひとなんだろう、田中泯さんは。

少し離れた石に腰をおろし、そのときを待つうちに、ぽつぽつとひとが集まりはじめ、やがて公園のぐるりを囲むほどになった。スタッフらしき一団が現れ、泯さんと談笑をしていると、時間ぎりぎりになってアラーキーこと荒木経惟氏もやってきた。去年の春に一度、やはり谷中界隈でアラーキーに遭遇したことがあったけれど、あのときの長袖がタンクトップに変わったくらいで、髪型も眼鏡もそっくりそのままアラーキーである。泯さんとアラーキーのツーショットを観るのは、私たちにとって、きっとこれが最初で最後だろうと、しっかり目に焼きつける。

そして、それははじまり、おわった。

田中泯が踊り、アラーキーが撮る。この日この場所で起こったことについて、それ以上、私になにが書けよう。

その引力に導かれるようにして、私たちはギャラリーに戻る一行についていって、泯さんの「場踊り」の映像を眺めたり、写真集を眺めたりして、うろうろと話しかける機会をうかがっていた。すると思いがけず、泯さんのほうから声をかけてくださって、ほんの2、3分ではあったけれど、直接言葉を交わす機会に恵まれた。

私はすっかり舞いあがってしまって、ちっとも言葉が出てこなかったのだけれど、最後に勇気を振り絞って、「握手をしていただけませんか」と図々しくお願いをしてみた。泯さんは「握手ですか」と笑いながらも、すっと右手を差し出してくださった。

その手の熱く、力強かったこと。それは土を知っている手であった。

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2008/06/25

まちと家と社交場

Img_1665_2「中古民家めぐりツアー 谷中・千駄木編」に参加する。案内してくださったのは、『中古民家主義』というとてもおもしろい本を書かれた眞鍋じゅんこさんと、イラストを担当されたアーサさん。

おふたりとも長らくこの界隈にお住まいで、地理には明るい。それゆえツアーは、ときに思いもかけない路地へ私たちをいざない、よくよく親しんだはずの場所もするりと表情を変える。まさかこんなところがあったとは、と恋人と顔を見合わせてはため息をつくうちに、ツアーはあっという間に終盤を迎えた。

最後にお邪魔したのは、なんと眞鍋さんがかつてお住まいだった古い貸家。以前この日記でも紹介した『産む快感』が書かれた、まさにその場所である。眞鍋さんが出産に臨んだ1階の和室は、驚いたことに、隣の大家さん宅と坪庭を囲む形で接しており、曰く「私の唸り声が聞こえてる間、みんな必死にお祈りしてくれてたんだって」とのこと。なんともはや。

つづいて、馴染みの古書店でスライドトークが行われた。今度は写真を担当された鴇田さんも交えて、3人で。そして残った約20名で、お約束の打ち上げが開かれた。そろそろ終電が、とひとりまたひとり減っていくなか、もちろん私と恋人は図々しく居座り、なにがどうなったのか、しまいには立ち上がって踊っていた。空が白みはじめた午前4時、ようやく家路につく。

色々なひとと色々なことをしゃべったので、細部については忘れてしまった。けれど、とにかく愉快な夜だったという記憶が、からだの隅々にまで染みわたっていて、あるいはそういう感覚のほうが、会話の内容よりもずっと大切なのかもしれない。

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2008/06/15

ダブル市

Img_1600_2  おろしたてのサンダルを履いて、鬼子母神の手創り市へ行く。副都心線開通記念イベントとして、今回は特別に、知人の企画した古本市も同時に開催されるのだ。

残念ながら、私たちは副都心線の恩恵にあずかる地域に住んでいないので、JRに乗って池袋まで行き、そこからぽくぽく歩く。鬼子母神の近くまでくると、新設された雑司が谷駅のほうから、たくさんの人が流れてきた。手創り市に出店している知人によると、いつもの2倍近い人出だという。

ぐるりと会場をめぐって、見知った顔にあいさつをし、古本数冊とカップをひとつ買った。それから雑司が谷の駅を見物しに行く。外観しか見ていないけれど、さすがに洒脱な造りである。

駅前にスタンプラリーの台紙があったので、スタンプを押してみる。なぜか青い馬だった。またぷらぷらと鬼子母神へ戻って、ここでもスタンプを押してみる。今度は赤い羊だった。鹿じゃなくてよかったと、胸をなでおろす。

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2008/06/01

白昼夢

恋人とふらふら散歩に出かける。住宅街の一角でかなちょろを見つけて立ち止まっていると、「珍しいの?」と、笑みをたたえた気のよさそうなおじさんが声をかけてきた。このときまだ私たちは知らなかった。それから延々1時間にわたって、その初対面のおじさんの話を聞くことになろうとは。

おじさんの話は、映画『慕情』から始まった。それからどう転んだか、自身が海外でしている活動や、そこにこめられた思い、さらに闘病生活や次世代の展望にまでいたった。私たちはそれを、見知らぬひとの家の前で、立ったまま聞いた。

あるいは「急いでるんで」とかなんとか適当な理由を見繕って、早々に切り上げることもできたかもしれない。けれどどうしてだか、ふたりともそうしなかった。それはおじさんの言葉に、嘘偽りがなかった(ように思えた)からかもしれない。ともかく私たちは、余計な質問を挟むこともなく、おじさんの話をしまいまで聞いた。

おじさんは言った。「若いひとたちが言うんだよ、自分にもなにかできることはないですかって。でもね、その気持ちだけで十分なんだ。そういう優しい気持ちを持ってるだけで、もう十分なの」

そうして最後に、「いやいや、年寄りは話が長くて。忙しいのに長々とつきあわせちゃってごめんね」と言うと、集会に勧誘したり、印鑑を売りつけたりすることもなく、ただ明るく手を振って去っていった。Img_1270

まるで白昼夢のような出来事だったけれど、だるさを残した私の足が、これが現実であることを伝えている。まだ2駅分歩く予定だったので、だるさを解消するべく喫茶店に入り、ふたりでホットケーキを分けあった。

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2008/05/23

答えの出ない問い

Img_1072ほんとうは平塚市美術館へ行きたかったのだけれど、思った以上に遠そうなので断念し、代わりに本郷散策に出かける。

樋口一葉の旧居跡を探しながら、路地をうろうろ歩けば、そこかしこに木造の建物が残っている。しかもそのすべてが現役。そこはかとなく生活のにおいがたちのぼってくる。炎天下、家々の隙間を縫って、いくつも坂を上り下りするうち、井戸を3つ見つけた。

こういう古い町並みが消え、画一的な高層ビルやマンションばかりが幅をきかすようになってしまうのは、とてもさみしい。でも同時に、「都会に出て近代的な家に住みたい」「もっと便利な暮らしがしたい」と、白黒フィルムのなかで熱っぽく語り、現に右肩上がりの成長を支えてきた生活者たちを断罪する気分にもなれないのだった。

最近よく、そんなふうに答えの出ない問いを繰り返しているなあとぼんやり考えながら、FIRE HOUSEのチーズバーガーを食べて帰る。

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2008/05/22

古い写真

恋人のバイクで、台東区の中央図書館へ行く。郷土資料調査室の閲覧席に陣取って、古い写真をたくさん眺める。なかに昔の我が家が写っている写真があって、思わずコピーをとってしまった。

それからかっぱ橋道具街を散策し、浅草に出たところで、空腹に負けて少し早めの夕ごはんを食べる。さしたる期待もせずに、ふらりと入ったお店だったのだけれど、とてもおいしい。浅草界隈の銭湯に来ることがあったら、帰りはこのお店へ寄ろうと心に決める。

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2008/05/17

町から町へ

Img_0910 7時半起床。清々しい目覚め。筋肉痛を心配したけれど、ゆっくり歩いたのがよかったのか、どこも痛くない。

さっそく朝風呂へ行く。りんごの浮いた内風呂も、緑に囲まれた露天風呂も、ひとりじめ。なんともぜいたくな時間であった。

ふだん夜が遅いので、こうして温泉宿へ泊まると、きまって翌朝が辛いものだけれど、今回は心地よい疲れに身を委ねてたっぷり眠ったうえ、朝風呂にまで入ったので、からだの隅々までしゃっきり覚醒している。おかげで朝食もどんどん食べられる。おかずを残さなかったのはもちろん、麦とろごはんもおかわりしてしまった。

宿を出たあと、前日通りがかったときに目に留まった「懐古園」へ行ってみる。どうやらここは、小諸城の城址を公園にしたものであるらしい。隣接する動物園や島崎藤村記念館、郷土博物館などをあわせて楽しめる共通券を買い、大型バスで乗りつけた観光客らにまじって、若葉のなかをゆらりと歩いてみる。

昼食をとるためだろう、やがて正午が近づくとみんなどこかへ消えてしまい、代わりに遠足に来た園児たちが、「そうだったらいいのにな」体操を始めた。つづく「ひげじいさん」の歌を聞きながら、今度は動物園へ行ってみる。

ぐるぐる走りまわるフェレット、鮮やかな羽を広げたクジャクなどを眺めていると、どこからか遠雷のような、地鳴りのような、低い音が響いてくる。それが百獣の王、ライオンから発せられたものだとわかったとき、私も恋人も心底恐怖した。こんなにもライオンを怖いと思ったことはないかもしれない。それを知ってか知らずか、ライオンは低く喉を鳴らし、「危険動物」と書かれた檻のなかから、じいっとこちらを睨めつける。

怖い。怖いのだけれど、目をそらせない。あちらがぷいっと視線をそらしてようやく、凍ったようになった足が動いた。すぐ近くの檻では、クマがだらしない格好で、ぐうぐう天下泰平のいびきをかいて寝ていた。

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Img_0958 それから、小諸の町を散策した。城下町である小諸は、北国街道の宿場町として栄えたらしく、今でもそこかしこに過ぎし日の面影を伝える建物が残されている。小江戸・川越に似た雰囲気を持った町だけれど、まだ観光地化されておらず、すれ違う人もほとんどいない。資料を求めて入った「ほんまち町屋館」でも、「こんな若いひと初めて来た」と歓迎される。最後にせいろそばを1枚ずつ食べて、帰路についた。

夕刻、無事に到着。休む間もなく自転車をこいで、映画保存協会の蔵で開かれている、「ちいさな上映会」へ行く。「郷土を調べよう」(1961年)や「はなれ島のくらし」(1971年)など、4本のフィルムを観る。最後に観た「職場の若者」(1964年)だけが劇映画で、青くさい若者たちが吐く、青くさい台詞に、いちいち腹のあたりがくすぐったくなった。

そんなこんなで、誕生日から3日間、好きなことばかりして過ごした。またしっかり働いて、旅の資金を稼がねば。

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2008/05/15

そして、これからも

Img_0494 28歳になった。

その瞬間は、あたたかい光とお酒、親しいひとたちの笑い声に囲まれて、とあるお寺で迎えた。それは愉快な夜だった。午前2時をまわってから、「おめでとう」の声を背中に、家路についた。

午後、真新しいカメラを手に、恋人と谷中へ行く。なにをするとも決めていなかったのだけれど、自転車をこぐ間にどんどんしたいことが浮かんできた。

ひとまず谷中コミュニティセンターに自転車を置かせてもらうと、桜並木を歩いて谷中墓地を抜け、上野桜木のイナムラ・ショウゾウに入った。休日には長い行列のできる、この界隈では有名なフランス菓子店である。さんざん悩んで、ケーキをふたつ、恋人に買ってもらう。

それからぽくぽく裏道を歩いて、スカイ・ザ・バスハウスやバテレン商會、みかどパンなどをのぞきながら、コミュニティセンター前の原っぱに戻り、うららかな陽射しに包まれたベンチでケーキを食べた。手も口もべとべとにしながら、豪快に。甘さと一緒に、幸福がじんわりからだに染みわたり、どうしたって頬がゆるんでしまう。

なんだか無性にバスに乗りたくなって、空になった箱をぶらさげたまま、三崎坂から「めぐりん」に乗った。愛らしい形をした、台東区のコミュニティバスである。私たちにはとても馴染み深いバスで、外出先でひょっこりめぐりんと行き会ったりすると、ひどく懐かしい気持ちになるくせに、よくよく考えてみれば、まだ実際には乗車したことがないのだった。

私たちの乗ったのは「東西めぐりん」で、上野や浅草をめぐるらしい。ハンドルをいっぱいに切って、思わぬ細道へ入っていったりするので、おもしろい。隣に乗り合わせた老夫婦や、「池袋へ行きたいのですが」と英語で話しかけてきた東欧の観光客などと言葉を交わしながら、下町情緒たっぷりの車窓を楽しんだ。

めぐりんは、約1時間かけてルートを一巡し、私たちをもといた場所に連れ帰ってくる。ふたたび自転車に乗って、知り合いの新刊書店に寄るころには、日も暮れかかり、風がぐっと冷たくなってきた。

寒い寒いと言いながら、根津神社近くの蕎麦屋、よし房 凛へ入る。せっかくの誕生日だから、ちょっと奮発してイタリアンのフルコースでも食べようかと恋人は言ってくれたけれど、ナイフフォークよりも、お箸を使って食事がしたい気分だったのである。それで、知人に薦められたこのお店を選んだ。

薫り高い蕎麦茶を飲みながら、肉厚の鴨焼きと熱々の天ぷら、最後にせいろをいただく。これがはっとするほどおいしい。ああ、蕎麦ってこんなにおいしいものだったのかと、思わずため息がこぼれた。

からだも心も満たされて、ひんやり冷たい夜気のなかを帰る。私はこうして、今日もここで生きている。

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2008/05/07

かぶとやま

2008_05080058_2今日でおしまいだというので、千駄木にある旧安田楠雄邸の五月飾りを見に行った。床の間の寸法に合わせて、名高い人形作家・永徳斎にあつらえさせたというだけあって、立派なものである。昭和11年に作られた品とは思えないほど美しく、長い歳月、大切に保管されてきたことがうかがえる。

旧安田邸にお邪魔するのは、一般公開前、ボランティアとして掃除を手伝いに来たときを含めてこれで三度目だけれど、何度訪れても感心してしまう。こと今日のようによく晴れた昼は、広く開け放たれた窓から、緑の匂いをはらんだ清々しい風が吹き抜けていって、気持ちがいい。

夕刻、仕事帰りの恋人と神保町でおちあった。なにをするのかといえば、来週に迫った私の誕生日プレゼントを買いに行くのである。

新しい自転車、カメラ、とほしいものはあったのだけれど、恋人が私のために選んでくれたプレゼントは、登山靴とリュックサックだった。趣味の登山に、私をひっぱっていこうというのである。

その方面に関してはまるで素人なので、言われるがまま何足かの靴を履き、いくつかのリュックサックを背負ってみた。そうして、靴底の返り具合や背中の当たり具合、機能性などを慎重に吟味し、それぞれひとつずつ選びだして買ってもらう。

不思議なもので、支払いがすみ、いよいよ自分のものになった途端に、それまでよそよそしかった品たちに愛着がわいてきた。軟弱な私に登れる山なんて高が知れているけれど、その行程や、頂から望む景色を思い浮かべると、知らず知らず頬がゆるんでしまうのだった。

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2008/05/06

おてんとさま

2008_05060144_2古本市weekの最終日。予想よりも仕事が進んだので、恋人と谷根千の町をまわって、イベントをはしごした。

まずは、スタンプを集めた台紙を持っていくと、ワインをサービスしてくれるというイタリアンレストランで昼食をいただく。供してくれたカリフォルニア産の白ワインは、すっきり優しい舌触りで、トマトベースのパスタにもよくあった。デザートまでおなかにおさめて、幸福な気持ちで青空号をこぐ。

それから、町のあちこちで行われている展覧会を、3つ見てまわった。そのどれもが、知り合い、もしくは知り合いの知り合い、という風にゆるくつながっていて楽しい。今回新たに、あっと驚くようなつながりを発見して、あらら悪いことはできないわねえ、と笑いあった。

それにしてもいいお天気。どうして3日前にこれだけ晴れてくれなかったのかと恨めしく思いながらも、この空気を満喫したくて、久々に恋人のSRに乗せてもらう。鮮やかな緑に彩られた内堀通りを一周し、ついでに恋人が教鞭を執る大学の前を通ってもらって、帰る。お天道さまに誘われて、すっかりのんびりしてしまった。

で、仕事。根をつめてパソコンにむかったら、日付が変わる直前に仕上がった。やればできるのだ。なかなかやろうという気にならないことのほうが問題なのだけれど。おとついの絶望的な気分を思い出して、ふふんと鼻で笑った。

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2008/04/05

銭湯で古本浴

2008_04070230_4 恋人とふたりで、「月の湯」という銭湯で開かれた古本市に行く。新聞やラジオで紹介されたからか、すれ違うのもやっというほどのたいへんな賑わいで、さらに週刊誌の取材まで来ていた。実行委員に知り合いがいる私たちも嬉しくなって、なんだか気分が大きくなり、つい散財してしまった。

帰りは雑司ヶ谷を抜けて、鬼子母神に寄り、池袋まで出る。恋人につきあってジュンク堂へ行き、本ばかりぎゅうぎゅう詰まった袋を抱えて街を歩きま2008_04070196わり、ふたりでお酒を飲んだ。

寝る前に、伊丹十三監督の『スーパーの女』を観る。子どものころ家族で観た『お葬式』や『タンポポ』を、その時分の空気と一緒に、懐かしく思い出す。

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2008/04/01

目をまわす

休む間もなく、月末に開かれる古本市の準備に突入。昼から不忍通りふれあい館に缶詰になって、チラシを刷る。その数なんと、1万枚!しかも両面刷り!すべて刷りあがるまでに、たっぷり4時間かかった。

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終わってから春服でも買いに行こうかと思っていたのに、なんだか目がまわってしまったので、やめにする。代わりに恋人とふたり、散歩がてら少し遠方のファミリーレストランへ行った。満開の桜並木をくぐりぬけた先にあるレストランからは、真っ赤な夕陽と、夕陽に染まる電車が何本も見えた。冷たい風の吹くなか、さらに遠まわりして、知らない街を通って帰る。

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2008/01/27

座り読み推奨

2008_01270061浅草から上野まで、恋人と散歩する。晴れの日曜とあって、すごい人出だ。

浅草寺や花やしき界隈をしばらくうろうろ歩いたのち、テプコ浅草館で「下町と銭湯の物語」展を見学。昔懐かしいほうろう看板や薬箱、台東区の銭湯写真などが並び、にぎにぎしい。目玉は、江戸期の「湯屋」ならびに昭和の銭湯「明神湯」を模したジオラマ。普段なら決してのぞくことのできない男湯を観察してみると、背中に立派な刺青を背負った殿方が湯浴みしていたりして、楽しい。 2008_01280051_2

2階は活動写真(映画)館や派出所などが並ぶ、古い町並みに似せたつくりになっており、ちょっとしたテーマパークの様相を呈している。一番奥まったところに、「浅草文庫」と名づけられた資料室があったので入ってみた。親切にも閲覧用のテーブルと椅子まで用意されている。

さてどれを見ようかと、本棚から数冊抜き取って立ったままぱらぱら眺めていると、「どうぞ座って読んでください」とうしろから声がかかる。振り向くと、番をする初老の男性が目に入った。「ええ、ええ、座って読むための本を選んでるんです、ご親切にどうも」という思いをこめて会釈し、ふたたび本の選別に戻る。

すると今度は、「どうして最近のひとは座って読まないのかねえ」と、やや苛立った声が聞こえた。ひとりごとのようであるけれど、明らかにこちらまで届く声量でごちている。勧めても勧めても、なかなか腰を落ち着けて読もうというひとが現れないのだろうか。なにも悪いことはしていないのに、なんだか申し訳ない気持ちになって、そそくさと部屋をあとにしたのだった。

帰って小説の執筆に励んだのち、『仁義なき戦い 広島死闘編』を観て寝る。

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2008/01/17

幽霊とコーヒー

清志郎につづいて、バリ旅行も予約してしまう。これで春旅の予定が定まった。

お天気に誘われ、恋人と谷根千散策へ出かける。まず「カブールの幽霊 下町リレー展」を見学。アフガニスタンはカブールの子どもたちが描いた、幽霊の絵の展覧会である。彩り鮮やかでありながら、おどろおどろしい絵がずらりと並び、横にはその背景に眠る物語が添えられている。まるで一編の詩のようなそれらの物語には、地雷や爆撃や虐殺や誘拐、そしてそこから生み出された狂気と悲しみが満ち満ちていた。

すべての絵を見終わったあとに、この展示を企画・運営しているNPOの方に話を聞いた。何度もアフガンへ足を運び、子どもたちに絵本や靴を届けているというその女性は、「なんでこんなことしてるんだろうって考えるときもあるんだけど、私たちとの出会いが、子どもたちのなかに楽しい記憶として残ってくれれば嬉しい」と目を輝かせて語ってくれた。

それから新刊書店で本を買い、古本カフェ結構人ミルクホールで、コーヒーとチーズケーキをいただく。まったり濃厚で、とてもおいしい。先日、閉店の危機にあることを告白していたけれど、ぜひともなくならないでほしい。

最後に古書店に寄って帰宅。よく晴れたとはいえ、寒風吹きすさぶ寒い一日で、今年初めて耳あてをした。

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2008/01/06

坂下

Photo_2 うんと厚着して、恋人のSR400に乗せてもらい、冬の街を風になって走る。抜けるような青空が目に沁みる。

ラクーアにバイクを停め、川を越えて、神楽坂まで足を延ばしてみた。ふたりで熱を上げたドラマ『拝啓、父上様』の面影を探して、うろうろと歩きまわるも、主人公が働く料亭の名前がどうしても思い出せなくなり、ふたりそろってもどかしさに焦れる。神楽坂を去ったあとになってようやく、それが「坂下」だったと思い出し、のどに刺さった小骨が取れたような清々しい気持ちで、顔を見合わせて笑った。

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2008/01/02

煙突を探して

2008_01060062 銭湯ツアーの下見も兼ねて、千石の「おとめ湯」を探しに行く。住所を誤って記憶していたため、しばらく迷ったものの、恋人が住宅街に突き出た煙突を見つけてくれたおかげで、なんとかたどりついた。とっくり外観だけ眺めて満足する。

そのまま巣鴨の地蔵通りまで足を延ばしてみると、高岩寺に詣でるお年寄りで大賑わい。前から気になっていた「珈琲伯爵」に入って、伯爵ブレンドを飲み、また延々歩いて帰った。

夜はアキ・カウリスマキ監督の『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』を観る。

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2008/01/01

歩きぞめ

Photo_3 家族でお節とお雑煮をいただいたあと、恋人と谷中七福神めぐりをした。

田端の東覚寺から上野の弁天堂まで、約2時間かけてのんびりぽくぽく歩く。7つすべての御朱印を集めるのに2400円もかかることに驚いたけれど、なかなか楽しい歩きぞめだった。

入浴後、鳥肌実主演『タナカヒロシのすべて』を観て、床につく。

今年もこうしてよく笑い、よく歩き、よく食べ、よく寝て、ふくふく楽しい一年にしたい。

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